生命の増殖とカンブリア
生命の多様性という言葉を遡って最も想起するのが容易であるのは、その現在に至る進化の過程において不可思議と特異性に満ち、また「生命のビックバン」と呼ばれるほど爆発的な生態系の変貌、増加に至ったカンブリア紀ではないだろうか。
アノマロカリス、サロトロケルクス、ピカイアなど、実に奇怪な生物を生み出した原始的で、かつ生命力が暴走したかのように激しく変貌を遂げたまさにハルキゲニアな生物の命は、我々の科学など及びもしない暴力的なまでの生命力を誇示しているのだ。
それも、5億7000年前という昔に。
現代は平和な世界の元、生命の進化ですら平穏を感じさせる。
だが、ここに今ある生物のDNAは、もとを辿ればこのカンブリア紀の海に発生し、そして生き抜いたもとたちの延長線上にある。
人間のDNAの情報でさえも、その系譜は爆発的に生命が躍動したカンブリア紀の海へと到達し、この時代に発生した多様性のほんの一タイプに帰結することになるのである。
そこにあるのは学術的な価値でも、人間の自己満足的な本質への探求でもない。
ただ爆発的としかいいようのない変異性、言い換えれば変化し続けるDNAという存在の恐ろしいまでの無限性なのである。
そもそも、DNAという分野は、科学的であると同時に一つの宗教として成り立つほどの毒性を孕んでいる、といえるのかもしれない。